個人開発で医療系アプリのプライバシーポリシー・利用規約を書くときの最低ライン
LINE ミニアプリ開発記 第 15 回
個人開発で「アプリは作れたけど、プライバシーポリシーと利用規約を自分で書く段になって手が止まる」というのは結構よくあります。私もそうで、特に 健康情報を扱う系のアプリ は、生半可な雛形をそのまま使うと法的にも AdSense ポリシー的にも危ういのでは、という不安が消えませんでした。
本記事は、個人で医療系・健康系のアプリを公開するときに プライバシーポリシーと利用規約に最低限書くべき項目 を、自分が書いたものを叩き台に整理します。本記事の内容は 法的助言ではなく、一個人開発者の実体験の記録・参考レベルの情報 に過ぎません。実際に公開する場合は、対象国・地域の最新法令と弁護士の確認を経たうえで運用してください。特に医療・健康分野は法令・プラットフォームポリシーともに変更が頻繁で、本記事の記載が公開時点と一致している保証はありません。
状況・前提
- アプリ: 個人で開発した健康情報ジャンルの LINE ミニアプリ
- 想定利用者: 子育て世代の保護者
- 取得する情報: LINE ユーザー ID、表示名、アプリ内で利用者が入力する健康関連の情報(日付・記録・任意のメモなど)
- 委託先: Firebase(Google)、Vercel(LIFF 本体)、Cloudflare Pages(ブログ + AdSense)、LINE、Google AdSense
- 運営: 個人。屋号と問い合わせ用メールアドレスを用意
詰まったポイント
何を書けば「最低ライン」を満たすのか分かりにくい
ネット上の雛形は EC サイト向け のものが圧倒的に多くて、医療や健康情報を扱うアプリ固有のリスクが拾えていない、ということに途中で気付きました。私が決めた最低ラインはこの 7 項目です。
[1] 取得する情報の一覧(取得元・用途とセット)
[2] 利用目的(曖昧な「サービス改善」だけでは弱い)
[3] 第三者提供の有無
[4] 委託先(Firebase / Vercel / LINE / AdSense などすべて明記)
[5] Cookie・類似技術の扱い(AdSense 利用時は必須)
[6] 利用者の権利(削除・停止の方法)
[7] 13 歳未満の扱い(保護者使用前提なら明記)
利用規約側はこれに 「医学的助言を提供しない」明示 が加わります。これが最重要。
「医学的助言を提供しない」が最重要な理由
健康情報を扱うアプリで利用者が誤った判断をしたとき、運営に責任が向きうる、というのが最大のリスクです。利用規約にこれを 明示的に書いていなかった 場合、商業医療サービスの提供と誤認される可能性があります。
私が入れた文面の骨子はこんな感じです(実物は弁護士確認の上でご利用ください)。
本サービスは、特定の医学的助言・診断・治療を提供するものではありません。
本サービスに表示される情報は一般的な参考情報であり、個別の医学的判断の代替とはなりません。
体調や治療に関する判断は、必ず医師等の専門家にご相談ください。
この 3 行があるかないかで、運営のリスクは桁違いに変わると私は理解しています。AdSense 側の方針面でも、Google の 2026 年版プログラムポリシーで 健康トピックは「センシティブカテゴリ」として扱われ、診断・治癒・確実な効果を示唆する表現や、未承認の治療法の宣伝が禁止 されています。「専門医療助言の代わりにはならない」旨の disclaimer 設置は AdSense ポリシーの推奨事項にも合致するので、この明示は法務面と広告審査面の両方で効きます。
委託先表記の漏れ
意外と忘れがちなのが AdSense や Vercel の委託先表記 です。「データを保管しているのは Firebase だけ」と思いがちですが、実際には:
| 委託先 | 何を委託しているか | 所在地 |
|---|---|---|
| Google LLC(Firebase / GCP) | 認証・データ保管・サーバ機能 | 米国 |
| Vercel Inc. | LIFF 本体のフロントエンド配信 | 米国 |
| Cloudflare, Inc. | ブログ・静的ページ配信 | 米国 |
| LINE株式会社 | LINE プラットフォーム連携 | 日本 |
| Google LLC(AdSense) | 広告配信(ブログ側) | 米国 |
これを 1 行ずつプライバシーポリシーに書きます。書かないと、利用者から見て「自分のデータが米国に行っているのに告知がない」状態になります。
解決手順: 書く順序
1. プライバシーポリシーの骨子を 7 項目で埋める
セクション構成:
1. 取得する情報(取得情報 / 用途 / 取得元の表)
2. 利用目的
3. 第三者提供
4. 委託先(表)
5. Cookie・類似技術
6. 安全管理措置(TLS / セキュリティルール / Storage アクセス制限)
7. 利用者の権利(削除・停止)
8. 未成年者・お子さまの利用について(年齢基準は最新の法令動向に注意)
9. ポリシーの変更
10. お問い合わせ先
未成年者・お子さまの取り扱いについての補足
「13 歳未満の利用者は対象外」「保護者使用前提」とする雛形が広く出回っていますが、日本の個人情報保護法は 2026 年に「3 年ごと見直し」の改正方針が示されており、16 歳未満の本人については法定代理人の同意取得を義務化する方向 で議論が進んでいます。現時点(2026 年 5 月)の現行法では、12〜15 歳以下の子どもについて法定代理人等から同意を得る必要がある旨が個人情報保護委員会の Q&A で示されている段階ですが、改正法成立後は 16 歳未満を「こども」と定義し、法定代理人同意を明文化 する形になる可能性が高い、という流れです。
個人開発で取りうる現実的な落としどころは次のあたりです。
- 雛形の「13 歳未満」をそのまま使うのではなく、「保護者の同意のもとでご利用ください」「対象年齢は保護者の判断に委ねます」 のように年齢の数字を確定させない柔らかい表現に倒す
- 子どものデータを直接扱うアプリ(健康情報など)は、改正法施行後の 法定代理人同意プロセス を将来追加できる設計にしておく
- 公開時点で最新の個人情報保護委員会ガイドラインを必ずチェックする
法令の細部は弁護士確認が前提です。
2. 利用規約に医療免責を入れる
規約のテンプレートに以下のセクションを必ず追加します。
- 本サービスは医学的助言を提供しないこと
- 利用者の自己責任での利用
- 本サービスの可用性・正確性の無保証
- 損害賠償の上限(利用料金相当額。AdSense 主軸なら実質ゼロ)
- 退会・データ削除の方法
3. 問い合わせ先を「個人名」で書かない
連絡先は 屋号 + 専用メールアドレス にします。本名と個人 Gmail を直接出すと、迷惑メールの宛先になり続けます。屋号は気軽に名乗れる程度のもので OK で、私の場合は Example Lab のようなライトな名前 + 専用ドメインのメールアドレスを使いました(具体名はそれぞれの個人運営者で変えてください)。
運営者: Example Lab
連絡先: info@example.com
このだけで、本名露出を避けつつ「個人開発でも問い合わせ窓口は用意してある」という体裁になります。
4. 公開場所はトップドメインに置く
プライバシーポリシーと利用規約は、アプリのフッターからリンクで飛ばすのが基本ですが、トップドメインの静的ページに置く ほうが AdSense 審査・SEO の双方で扱いやすいです。私は https://example.com/legal/privacy/ のような階層に Astro で静的配信しました。
学び・余談
書き始めるまでは「個人開発でこんなのまで要るの?」とげんなりしていたのですが、実際に骨子を埋めてみると 取得する情報の一覧と利用目的を明示する作業そのものが、自分のアプリの設計レビューになる という副次効果がありました。「あれ、この情報って何のために取ってたっけ?」と立ち止まった項目がいくつかあって、結果として取得項目が減りました。
公開直前のセルフレビューとして、プライバシーポリシーを書く工程は割と健全に効きます。
最後にあらためて強調しておきたいのは、本記事は一個人開発者の記録であり、法的助言ではない ということです。書いている内容は私自身が公開時点で参照した範囲のもので、医療・健康・個人情報の領域は 法令もプラットフォーム側のポリシーも頻繁に変わります。記事公開時から時間が経っている場合、実際の運用前には改めて最新情報を確認してください。心配な点は 弁護士・専門家への相談 を強くおすすめします。本記事を「叩き台」として使い、最終的な責任は運営者本人が持つ、というスタンスで読み進めていただければと思います。
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参考
- 個人情報保護委員会: 個人情報保護法ガイドライン
- 個人情報保護委員会: 子どもの個人情報に関する Q&A 1-62
- Google AdSense: プログラム ポリシー
- Google 広告ポリシー: ヘルスケアと医薬品